2026年に向けて、労働基準法の改正に関する議論が本格化しています。
働き方改革関連法の施行から数年が経過し、テレワークや副業の普及、少子高齢化による人手不足など、労働環境は大きく変化しました。
その一方で、現行法では対応しきれない課題が顕在化し、実務現場では判断に迷うケースも増えています。
今回の改正議論は、単なる制度調整にとどまらず、「これからの働き方」を前提に労働基準法を再設計する動きとも言えます。
本記事では、2026年改正に向けた背景や主要論点を整理したうえで、企業が今から備えるべき実務対応について解説します。
なぜ今、再び「労働基準法」が変わるのか?
労働基準法は1947年に制定され、日本の労働法制の根幹を成してきました。
しかし、その前提は「同じ場所で、同じ時間帯に働くフルタイム労働者」が中心です。
近年はテレワーク、フレックスタイム、副業・兼業、ジョブ型雇用などが広がり、働く時間や場所、関係性が多様化しました。
こうした変化により、「労働時間とは何か」「労働と私生活の境界をどう守るか」「健康確保を誰がどこまで担うのか」といった根本的な問いが改めて浮かび上がっています。
現行制度では、解釈や運用で対応してきた部分も多く、企業・労働者双方にとって不透明さが残っていました。
2026年改正に向けた議論は、この不透明さを解消し、時代に合ったルールへと更新するためのものです。
企業にとっては、単なる法令対応ではなく、経営や人材戦略と直結するテーマとして捉える必要があります。
2026年改正に向けた4つの重要論点
2026年改正に向けた4つの重要論点をそれぞれ解説します。
(1)「つながらない権利(勤務間インターバル)」の法制化検討
近年注目されているのが、勤務時間外に業務上の連絡を受けない権利、いわゆる「つながらない権利」です。
特にテレワークの普及により、就業時間後や休日であってもメールやチャットへの対応を求められるケースが増え、実質的な長時間労働につながる問題が指摘されています。
勤務間インターバル制度自体は、すでに努力義務として存在しますが、実効性には課題があります。
2026年改正では、この制度をより強制力のある形で位置づけることが検討されています。
企業にとっては、単に制度を導入するだけでなく、管理職の意識や評価制度を含めた運用設計が重要になります。
(2)労働時間制度の柔軟化と健康管理の厳格化
働き方の柔軟化を進める一方で、健康確保をどう担保するかも大きな論点です。
裁量労働制や高度プロフェッショナル制度については、自由度の高さと引き換えに、健康管理が形骸化しやすいという課題があります。
今後は、労働時間の把握方法や健康管理措置について、より厳格なルールが求められる可能性があります。
労働者の自己管理に委ねるのではなく、企業としてどこまで関与するのか、その線引きが問われることになります。
(3)労働条件明示ルールの現代化
労働条件の明示については、すでに電子交付の解禁などが進んでいますが、依然としてトラブルが多い分野です。
特に、業務内容や勤務地が柔軟に変わる働き方が広がる中で、どこまで具体的に明示すべきかが問題となっています。
2026年改正では、職務内容や変更範囲、評価基準などについて、より明確な説明を求める方向で議論が進む可能性があります。
これは、採用段階だけでなく、配置転換やキャリア形成にも影響を及ぼします。
(4)オンコール・手待ち時間の明確化
医療・IT・インフラ分野を中心に、オンコールや手待ち時間の扱いが問題となっています。
実務上は拘束されているにもかかわらず、労働時間に該当するかどうかの判断が分かれやすい領域です。
今後は、労働時間該当性の判断基準がより整理される可能性があります。
企業としては、曖昧な運用を続けることがリスクとなり、未払い賃金や是正勧告につながる恐れがあります。
実務現場で起こりうるトラブルと対策
続いて、実務現場で起こりうるトラブルとその対策についてご紹介します。
(1)テレワーク中の「見えない残業」による未払い賃金請求
テレワークでは、業務の開始・終了が曖昧になりがちです。
本人は自主的に対応したつもりでも、業務指示や暗黙の期待があれば、労働時間と判断される可能性があります。
結果として、未払い賃金請求に発展するケースも少なくありません。
対策としては、業務指示の出し方や連絡手段のルールを明確にし、勤怠管理を形式的なものにしないことが重要です。
(2)副業・兼業者の過重労働と労災リスク
副業・兼業が一般化する中で、複数の勤務先を合算した労働時間管理が課題となっています。
過重労働による健康障害が発生した場合、どの企業がどこまで責任を負うのかが問題になります。
企業としては、自己申告任せにせず、定期的な確認や注意喚起を行う体制が求められます。
(3)管理職の負担増とハラスメントリスク
制度が複雑化するほど、現場で判断を迫られる管理職の負担は増大します。
結果として、過度なプレッシャーやコミュニケーション不足がハラスメントリスクを高める可能性があります。
法改正対応は、人事部門だけの問題ではなく、管理職教育とセットで進める必要があります。
2026年に向けて企業が「今」着手すべきロードマップ
最後に、法改正に向けて企業が着手すべき点について解説します。
(1)【現状把握】就業規則と実態の乖離チェック
まず重要なのは、就業規則と実際の運用が一致しているかを確認することです。
テレワークやフレックス制度が、規程上どのように位置づけられているかを見直すことが第一歩となります。
(2)【環境整備】勤怠管理の「証拠力」を高める
今後は、勤怠データの正確性と客観性がより重視されます。
打刻方法やログ管理の仕組みを見直し、説明責任を果たせる状態を整えることが重要です。
(3)【意識改革】「働かせ方」から「自律的な働き方」へのシフト
制度対応だけでは限界があります。
従業員一人ひとりが、自らの働き方と健康に責任を持つ文化を育てることが、結果的に法改正への最善の備えとなります。
まとめ
2026年の労働基準法改正は、企業にとって単なる法令対応ではなく、働き方そのものを見直す契機となります。
変化をリスクとして捉えるのではなく、組織の持続的成長につなげる視点が重要です。
今から準備を進めることで、改正後も安定した労務管理と信頼される企業運営を実現できるでしょう。
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監修者海蔵 親一
社会保険労務士・行政書士・社会福祉士
「経営者と同じ目線で考え、行動すること」をモットーに、現場に即した実効性のある支援を行っている。


















