[1]虚偽申告による採用内定取消有効判例事例
大手総合コンサルティング会社から内定を得た労働者が、経歴調査で虚偽申告が発覚し内定取消しを不服として訴えた裁判で、 東京高等裁判所は内定取消しを有効と判断しました。 同社はスキルだけでなく経歴や実績も重視していたと指摘し、労働者が過去の雇用・勤務形態や経歴の空白期間の有無・理由は重要な考慮要素になるとしました。
労働者は履歴書の職歴欄に、IT関連の仕事を個人事業主として請け負ってきたと記入、実際には複数社をトラブルにより短期離職するなどの経歴があり、 職歴を偽り、複数社を短期で離職していたことが問題視され、一審・二審ともに内定取消しを有効としました。
令和4年初め – 東京都内の総合コンサルティング会社の中途採用に応募
職務経歴書に平成23年から現在まで個人事業主としてIT関連業務を請け負ったと記載。勤務先に大手システム会社や携帯電話会社が列挙
令和4年4月20日 一次面接。
令和4年5月中旬 二次面接(ウエブ会議)。
令和4年5月30日 オファーレターと雇用契約書の送付し、採用内定が成立。
令和4年6月上旬 経歴調査開始。
令和4年8月15日 経歴調査結果をもとに、労働者と面談。
※雇用契約書には特別条件として、「会社による、標準的な経歴調査に対し全面的に協力し、当該経歴調査を問題なく完了させること」を満たさない場合、会社がオファーを撤回できると記載。
事情聴取に対し労働者は、申告した2社の雇用先との間で紛争が起き、弁護士に依頼して解決を図った旨、令和3年12月~令和4年2月までの空白期間は就労しておらず、雇用先から支払われた解決金により生活をしていた旨を述べる。
令和4年8月31日 – 採用内定取消しを通知。
一審は、労働者が真実を申告しなかったのは、雇用関係の解消をめぐる紛争を隠す目的と推認。 採用内定時には知ることができなかった事実であり、企業内に留めおけないほどの不正義性が認められるとして、内定取消しには合理性があるとした。二審も一審に引き続き、内定取消しを有効としました。 労働者の年齢(当時35歳)や求人の応募要件の内容に照らせば、同社はスキルだけでなく、「物事を客観的にとらえて論理的に考えをまとめ、相手に応じた最適なコミュニケーションで仕事をこなせること」を重視していたと強調。労働者の過去の雇用・勤務形態や、経歴の空白期間の有無とその理由も重要な考慮要素になると強調しました。
[2]採用内定取消が有効になるためのポイント
- 採用内定時に知り得なかった重大な事実の存在
- 内定取消の合理的理由が存在すること
- 企業の正当な期待を損なう事情があること
- 手続きの適正さ(解雇権濫用にあたらないこと)
- 労働者への配慮(取消による影響を考慮)
採用内定取消が有効とされるためには、「内定時には知り得なかった重大な事実の存在」と「企業の正当な期待を裏切った事情」に加え、「適切な手続き」が重要です。また、取消によって労働者が受ける影響も考慮されるため、内定取消を行う場合は十分な理由説明と手続きの適正化が求められます。
※前職調査とは、専門の調査会社や人事により行うもので、応募者の同意が必要です。リファレンスチェックとは主に前職の上司や同僚に応募者の人となりを確認するもので、応募者がヒアリング対象を紹介するのが一般的です。