人事労務ブログ

これからIPOを目指す企業のスケジュールと留意点

近年、スタートアップを中心とした企業を中心にIPO(株式公開)を目指す動きが活発化しています。

IPOは資金調達手段として魅力的であるだけでなく、企業価値の向上や社会的信用の獲得といった副次的な効果も大きいことから、企業成長の計画上の重要なポイントとして注目されています。

しかし、IPOを達成するには、適切なIPOスケジュールの策定と、上場に向けた社内体制の整備が不可欠となります。

今回は、これからIPOを目指す企業が押さえるべき基本的なIPOスケジュールと、各段階における留意点を解説します。

IPOスケジュールの全体像

IPOの準備には、通常3年から5年程度の期間を要します。

上場に向けて、複数の段階を経て段階的に進んでいくことが一般的です。

これからIPOを目指す企業にとっては、全体像を把握し、各ステップに応じた準備を進めることが重要となってきます。

事前準備フェーズ

最初の段階は、いわゆる「事前準備フェーズ」と呼ばれるもので、ここでは社内体制や業務フロー、財務の透明性など、上場企業に求められる基本的な管理体制を整えることに重点が置かれます。

期間としては、1年から2年ほどを見込んでおく必要があります。

専門家チームの選定

その後、IPOの現実味を帯びてくると、主幹事証券会社や監査法人といった専門家チームの選定に入ります。

主幹事証券会社や監査法人は、IPOプロジェクト全体を導いてくれるパートナーであり、上場審査の対応等欠かせない重要な存在です。

このプロセスは、準備と並行して半年程度の時間をかけて行うのが一般的です。

IPOカウントダウン期間

次のステップでは、「N-3期」から「N-1期」まで、いわゆるIPOカウントダウン期間に入ります。

N-3期

「N-3期」は、IPO基準での決算期が始まるタイミングであり、ここから3期分の監査済み決算書の提出が求められるため、実質的な上場準備のスタートとなります。

財務体制に加え、法務、税務、人事労務、全社体制の統制が重要な時期になってきます。

N-2期

「N-2期」になると、IPO審査を見据えた、デューデリジェンスが行われます。

ここでは、未整備の契約書、取引実態や簿外債務などの労務リスクに問題がないかを第三者の視点からチェックし、必要に応じて是正対応を行います。

また、この時期には上場に必要な申請書類(Ⅰの部、Ⅱの部等)の作成も始まります。

N-1期

「N-1期」は、IPO直前期となります。

監査法人による内部統制監査(J-SOX)の対象にもなります。役員研修やコンプライアンス教育、投資家向け広報(IR)体制の整備など、形式的な基準だけでなく、実質的な経営の透明性と信頼性が厳しく求められる期間となります。

そして、上場申請の提出から承認・上場まではおよそ半年から1年程度の期間を要します。

日本取引所グループ(JPX)や主幹事証券会社による厳格な審査を経て、上場日を迎えることになります。

このように、IPOスケジュールは長期にわたり、各ステージごとに異なるテーマと課題に取り組む必要があります。

その全体像を正しく把握することが、IPO成功の秘訣の第一歩と思われます。

段階別のIPOスケジュールと留意点

それぞれの準備段階でのスケジュールと注意点について解説します。

(1)事前準備フェーズ

この段階では、まず、自社の成長戦略がIPOの方針と矛盾しないことを確認することが重要です。

単なる資金調達手段としてではなく、「なぜ上場するのか」を明確にする必要があります。

そして、社内体制の見直しと経営理念の再確認が必要です。
この段階では、以下の整備が求められます。

① 会計基準の見直し
② 社内管理体制の構築
③ 月次決算の精度向上
④ 取締役会の機能強化

(2)N-3期 形式要件の整備とガバナンス強化

ここからが本格的なIPOスケジュールのスタートといえます。

形式要件の整備とガバナンス強化が必要となってきます。

証券取引所の形式要件(利益水準、純資産、株主数など)に合致しているかの確認と同時に、定期的なモニタリング体制が求められます。

この段階では、以下の整備が求められます

① 中期経営計画の策定
② 監査法人によるショートレビュー(レビュー監査)
③ グループ会社の連結体制の見直し
④ 各種開示資料の原型作成(Ⅰの部、Ⅱの部)

(3)N-2期 各種デューデリジェンスと申請準備

N-2期になると、上場審査を見据えた法務・労務・税務のデューデリジェンスが実施されます。

これらは、ガバナンスが形骸化していないか、実効性が伴っているかを確認する上で欠かせないプロセスです。

このタイミングで問題が見つかると、IPOスケジュール全体が後ろ倒しになるリスクがありますので、早めの是正対応が必要となります。

特に注意すべきは以下の点となります。

① 労務面のリスク(未払い残業・偽装請負・社会保険の未加入など)
② 税務上の繰延税金資産や取引の整合性
③ 株主間契約・反社条項・ストックオプションの適正性

(4)N-1期 上場申請書類の作成と内部統制監査

N-1期は最終調整の段階に入ります。日本取引所グループ(JPX)に提出する「Ⅰの部」「Ⅱの部」「有価証券報告書」の完成、内部統制報告制度への対応が主なタスクです。

IPOに臨むにあたっては、形式的な基準の達成にとどまらず、投資家にとって信頼に足る実質的な経営体制の確立が不可欠です。

この段階では、以下の整備が求められます

① 内部統制監査対応
② 役員教育・コンプライアンス研修
③ IR体制の整備(投資家説明資料の準備)
④ 上場承認前審査への対応(形式的審査基準・実質的審査基準)

(5)申請・承認・上場  IPOスケジュールの最終確認

上場申請から上場に至るまでの数ヶ月間、日本取引所と主幹事証券による審査が続きます。

その審査内容は、会計・法務・ガバナンスに加え、事業計画や投資家への対応状況など多方面にわたります。

また、無事に上場日を迎えたことで、長いIPO準備期間は一段落しますが、上場は終わりではなく始まりです。

上場後は四半期ごとの情報開示やガバナンスの維持、株主とのコミュニケーションなど、さまざまな新しい責任が発生します。

完了前の最終調整段階

① 日本取引所への申請書提出
② 証券審査会との面談・質問対応
③ 仮条件決定・ブックビルディング
④ 上場承認・公開価格決定・上場

まとめ  IPOスケジュールを自社に最適化する視点

IPOスケジュールは企業ごとに若干の違いがありますが、どの企業にも共通するのは「計画性と実行力が成否を分ける」という点です。

着実な内部体制の整備と透明性の高い経営の実現が審査・市場評価を左右します。

また、IPO準備は経営陣だけの課題ではありません。

管理部門・人事・法務・営業・IR・情報システムなど、全社一体となって取り組むことが成功への鍵となります。

特に従業員一同が、一つのベクトルとなり会社と一体となり、IPOに向けて突き進むことは会社にとって、大きな成長の原動力ともなります。

IPOを目指すすべての企業が、自社に合ったIPOスケジュールを設計し、信頼される企業へと成長していくことを願っています。

 

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監修者海蔵 親一

社会保険労務士・行政書士・社会福祉士

大阪府出身。企業のIPO支援や労務コンサルティングを中心に、幅広い業種に対して実践的なアドバイスを提供。
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